サカナ記念日

神秘熊野から魚便りをお届けします。

熊野の伝統食 さんま寿司とは

実は、日本で食べられている魚で、すべて国産且つ天然の魚はサンマだけです。ちなみに、熊野の年配の方はサンマのことをサイレと呼んでいます。今回はそのサンマを使った熊野の伝統食、さんま寿司を紹介します。

 

サンマと言いますと、夏から秋にかけて北海道や東北で揚がるものを思い浮かべる方が多いかと思います。サンマは回遊魚で、冬から春先にかけて黒潮に乗って、熊野周辺の海にも回遊してきます。熊野に回遊してくるサンマは、適度に脂が抜けていて、塩や酢の浸透が良いため、干物、すしな(塩漬け、酢漬けした生魚)といった料理に向いています。

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熊野で揚がったばかりのサンマです。

 

熊野の伝統食であるさんま寿司は、開いたサンマを塩漬け、酢漬けにし、酢飯に乗せて巻いた棒寿司です。シンプルな料理ですが、実は奥が深いのです。塩や酢の効かせ方具合によって味が大きく変わります。さらに、柑橘酢を使ったものや、なれすし(発酵寿司)もあり、地域や家庭、お店によって様々な味のバリエーションがあります。

 

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さんま寿司です。

 

実は、さんま寿司発祥の地は熊野です。

熊野市に産田(うぶた)神社という弥生時代から続く長い歴史を有する神社があります。産田神社は国産み神産みの神と言われているイザナミが子であるカグツチを産んだ後、亡くなった場所と言われています。この産田神社の祭礼において、さんま寿司が振る舞われていたと日本書紀に記されています。現在でもこの祭礼は続いており、祭礼後の直会という共飲供食の儀式でさんま寿司が供されています。

 

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さんま寿司発祥の地 産田神社です。

 

いにしえの熊野びともさんま寿司を食べていたのですね。産田神社の祭りで、皆で賑やかにさんま寿司をほうばっている様子が目に浮かびます。千年以上の時を超えて、さんま寿司は現代の熊野に住む人々にも愛され続けています。今でも、祝い事や祭りなどの賑やかな席でさんま寿司は供されています。

 

いにしえのさんま寿司はどのような味だったのでしょうか。赤米や雑穀米を使用していたのかもしれません。おそらく、現代のさんま寿司より塩気は効いていたのでしょう。冷蔵庫のない時代ですので、保存力を高めるために塩を多めに使っていたと思われます。味の変遷はあれど、さんま寿司そのものは千年以上も連綿と生き続けています。千年後の人々にも、さんま寿司という熊野の「伝統」を伝えていきたいものです。

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産田神社の参道です。

 

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